悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
「でも5回目の今回は、何か違う感じがするんだ」


クロードは夜風に銀髪を揺らしながら、手すりに寄りかかり話を続ける。


「今までのレベッカは、転んだリリアに新しい靴を渡すこともなかったし、俺やリリアに服を作ることはなかった」


レベッカは内心、まずい! と声をあげてしまった。

大好きなゲームに転生して、美男美女に囲まれ、自分の好きな中世ヨーロッパ風のドレスを作れることに感激したとはいえ、やはり元の悪役令嬢のキャラを壊しすぎたか。

冷や汗をかくレベッカに、クロードは続ける。


「……そのおかげで、すごく良い方向に進んでいる」

「え?」


てっきりがっかりされたり、怒られたりするのかと思ったら、クロードはふっと微笑んだ。


「だって、君と舞踏会で踊れた」


優しく微笑むクロードは、巷で噂されている冷徹公爵とは違う。

温かさのこもった、穏やかな青年だ。

レベッカは再び心拍数が上がり、どこを見ていいか分からず視線を泳がせる。


(私が5回目から転生してきたんだということは、なんとなく言わない方がいい気がするわね……)


プライドが高く気の強い悪役令嬢、レベッカ・エイブラムと、アパレルメーカー勤務社畜アラサーの性格は、全く違うはずだ。

きっと彼は元々のレベッカが好きだったはずだから、言わないでおこうと心に決める。

なぜなら、もう自分も彼に惹かれている。

余計なことを言って、嫌われたくないと思ったのだ。


「では、もうループを繰り返さないように一緒に考えましょう!」


レベッカはそう提案して、拳を握る。


「きっと何か方法があるはずですわよ」


お嬢様言葉の語尾を使い力強く頷くと、クロードはその発言に呆気に取られていた。


「……信じてくれるのか」

「もちろん。クロード様がそんなおかしな嘘を言うとは思えませんわ」


そんな嘘をついたとしても、変な奴だと思われるリスクのみで、なんの得もないだろう。

共に力を合わせて打開策を探そうと提案するレベッカに、クロードは小さく頷いた。

すると広間の中から拍手が聞こえ、舞踏会の終わりの音楽が鳴っていた。

どうやら二人でテラスで話しているうちに、お開きの時間になってしまったようだ。


「遅くなってしまったな。……寮の部屋まで送るよ」


ネイビーのタキシードを着た彼が優しくエスコートしてくれる。

ブルベ冬の彼には、レベッカが作ったその服はとてもよく似合っている。

何度もループしている彼は、どうかそのループから抜け出し、自分と結ばれたいらしい。

黒いレースのマーメイドドレスを着たレベッカは、階段をおりながら隣に並ぶクロードに伝える。


「もしよかったら、今度のお休みの日にデートしませんこと?
 プロポーズは嬉しいですが、まずはお互いもっと知り合わないと」


好感を持ってはいるが、一生の相手を早急に選ぶことはお互いできまい。

そう提案すると、クロードは、急な誘いにぽかんと口を開けたが、そうきたか、と笑った。


「勿論だ。……デートコースは俺に選ばせてくれ」


冷徹公爵は、最近はよく笑うようだった。
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