悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
もちろんどうぞ、と喜んでその婦人を店の中へと案内する。

日傘を畳み、ハンカチで額に浮かぶ汗を押さえた婦人は、そっと店の中へと入った。


「あら……素敵な服ばかりね」


店内に飾られているドレスやワンピースを見ながら、婦人は感嘆の声を上げる。


「このドレスなんて、刺繍がとても細かくて綺麗だわ。あなたが作ったの?」

「は、はい! そうなんです」


結局授業を受け、開店準備をしながらでは1週間で一着しか作れなかった。

美女と野獣のヒロインをイメージして作ったイエローのドレスを、店に入ってすぐの目立つところに飾っておいたのだが、婦人はすぐに目に留め誉めてくれたのが嬉しかった。

一番時間がかかった胸元の刺繍も褒められ、レベッカは内心ガッツポーズを取る。


「今日はドレスは着ないから、また今度かしらね。ワンピースを見せてくれるかしら」

「こちらへどうぞ」

店の入り口から見て左手に、シンプルから華やかな様々な形のワンピースが飾られている。


「お客様は本日はどのようなご用事ですか?」

ワンピースを眺めていた婦人にレベッカが問いかける。


「わたくし、これから旧友の皆様と久しぶりにお茶会ですの。
すごく楽しみなんだけれど、わたくしももういい歳なので、何を着ていけばいいかわからなくてね……。
カジュアルなワンピースが思いつかなくて、無難な白にしたのよ」


婦人は見たところ、40代後半から50代前半といったところだろうか。

上品な仕草と、育ちの良さが滲み出ている言葉遣いで、高貴な出身だと見て取れる。

目尻に皺はあるが、きめ細やかな肌や艶やかな髪はよく手入れされていて、柔和な美人である。


「でも、どうせならもっと明るい色の服が着たくてね。後ろ髪を引かれていたら、あなたの声が聞こえて」


楽しみなイベントがある日に、服装がいまいち決まらないと、気分が上がらないのは女性にはよくあることだ。

ぜひ、彼女の機嫌を上げて、旧友たちと楽しい時間を過ごしてほしい。

そう思ったレベッカは頷き、婦人の姿を改めて観察する。


(チャコールブラウンの髪色に、同じ色の瞳。目は大きく、少したれ目の顔立ち。
パーソナルカラーはイエベ春ね。原色とアースカラーは似合わない)


頭の中で、素早くコーディネートを組み建てていく。

レベッカは、相手に一番似合う服装は何かを考えている、この時間がすごく好きだった。


(肩幅は細く、くるぶしや腕の筋も出ているほど華奢。
すとんとしたIラインのワンピースじゃ貧相に見えてしまう。
かといってAラインは少し子供っぽい。彼女の雰囲気に合う、上品で優雅な、それでいて暖かく華やかな……)


ハンガーにかけて飾ってある数多くのワンピースの中から、似合うものを探していく。

ドット柄のノースリーブではない、コーラルピンクは甘すぎる。黒はシックすぎて、お茶会にはそぐわない。

ピンときた、一つのワンピースを手に取った。


「お客様には、こちらが似合うと思います」


レベッカが手に取ったワンピースを、婦人は少し驚いたような顔で見た。


「ライム色のマーメイドワンピースです」


自信満々に、レベッカはその服をお客様の前に掲げた。
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