悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
次の日は、早起きをして学園の正門へと向かった。

クロードと待ち合わせをし、図書館に服の作り方などの指南本がないか探すためだ。

こういうとき、スマホがあれば簡単に検索できるのにな、とレベッカは思うが、一昔前の人たちはみんなこうやって自分で本を探してページをめくって覚えていたんだ、と気を引き締め直す。


「おはよう」


私服のクロードが、いつも変わらず身だしなみを整えた完璧な姿で、涼やかに立っている。

寝癖がついていたり、服にシワがある姿を一度も見たことがないな、と礼節を重んじる公爵家出身はさすがだなと尊敬する。

二人並んで園庭を歩いていく。青々と茂る草木が風に揺れる音が聞こえる。

永遠に続くループの始まりの場所である、ベンチの横を通り過ぎる時、クロードはわざと視線を逸らし、唇をキツく結んでいた。

トラウマであるその場所を、直視したくないのかもしれない。

違う道から行けばよかったかな、と配慮が足りず申し訳なく思ったレベッカの前に、一人の青年が歩いてきた。


「やあ、おはよう! クロードとレベッカじゃないか」


片手をあげて爽やかに挨拶してきたのは、ユリウスだった。


「ユリウス、どうしてここに?」

「いや、リリアと待ち合わせをしてて。
 ……これからデートなんだよ」


最後は声をひそめて、秘密話をするようにクロードに耳打ちするユリウス。まさに仲のいい男友達同士、といった様子だ。

どうやらユリウスとリリアも順調に仲を深めていっているようだ。


「君たちもずいぶん仲が良いんだな!
 休みの期間、3番街に服屋を開いたって聞いたぞ」

噂はすぐに回ってしまうらしく、ユリウスの耳にも入っていたようだ。


「すごくセンスよくて愛想のいい店人がいるって、セリーヌさんが喜んでいたよ」


彼の言葉の中に、聞き覚えのある名前があった。

セリーヌというのは、確か昨日ライム色のワンピースを借りてお茶会へ行った、感じのいい貴婦人の名前ではなかっただろうか。

同じことをクロードも思ったのだろう。

知り合いなのだろうか。それにしては、さん付けで親しげだ。


「なんで、ユリウスがあのお客様のことを知っているんだ?」


親友の言葉に疑問を唱えると、彼はとんでもないことを口にした。


「なんでって。セリーヌさんは俺の叔母だからさ」



ユリウスが頭を掻きながら当たり前のように告げる。


俺の叔母?


皇太子であるユリウスの叔母ということは。



このテイラー王国皇帝の、妹君?



目を見開いたクロードと、口を大きく開けた固まったレベッカが、顔を見合わせた。



「すごくよかったから、友達みんなに勧めるって言ってたよ」



金髪をなびかせたユリウスの言葉は、完璧に分岐点となっていた。



幸運の女神は、意外と身近にいたらしい。
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