1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
彼女が結都の顔が好きとか、たくましいところが好きというなら、紗彩も許せたかもしれない。
だが香澄が見ているのは消防士の仕事に責任と誇りを持っている結都ではなく、大会社の社長の息子という肩書きだけなのだ。
「結都さんは私の夫です。別れるわけないじゃないですか」
ピンと背筋を伸ばして、紗彩はまっすぐに香澄を見た。
「だから~、お金なら出すわよ。あなたは会社のために結婚したんじゃないの?」
これまでの紗彩なら、自分たちは政略結婚だからと怯んだかもしれない。だが、もう紗彩に迷いはなかった。
「会社のことは関係ありません」
「だって、まだ妊娠していないんでしょ。私なら……」
「私が妻です。あの人の子どもを産むのは私だけ。あなたじゃありません」
強く言い返されるとは思っていなかったのか、香澄はキョトンとした顔をする。
「お帰りください。もう私たちの前に現れないで」
レシートをつかむと、ニッコリと笑って紗彩は立ち上がった。
「二度と私たち夫婦の邪魔しないでくださいね」
この人と同じ空気を吸うのも限界だった。
「ごちそうさまでした」
店主に微笑んで会計を済ませた紗彩は、スッキリとした気持ちで店を出た。
そろそろ出初式とイベントは終わりなのか、人影がまばらになってきている。
さあ帰ろう。結都とふたりで暮らす家に。そう思うだけで、紗彩の心は弾んでいた。