1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
夕方になって、キッチンで食事の支度をしている時間に結都が帰ってきた。
イベントの日だから同僚たちと飲みに行くのかもしれないなと気になっていたが、まっすぐ帰ってきてくれたようだ。
「お帰りなさい」
「ただいま」
洗面をすませた結都がキッチンに顔を見せた。
自然に言葉を交わせたことにホッとする。
「いい匂いだ」
「お鍋にしたの。今夜は一緒に食事しましょう」
そう言いながら、シンクにむかって野菜を洗っている紗彩に結都が近づいてきた。
「紗彩」
「素敵だったわ、今日の虹」
結都の返事はないが、きっとうなずいているはずだ。
「あの虹を、私に見せたいって思ってくれたのね」
結都が後ろにいるとわかっているのに、背を向けたまま紗彩は話し続ける。
その方が素直に言葉が出てくるからだ。
「喜んでくれると思った」
「嬉しかった。結都さんの気持ちが」
「紗彩」
結都の体温を背中で感じる。
「心がうんと軽くなれたの」
そう言って振り向くと、結都が紗彩の両腕をそっとつかんだ。
「これ以上軽くなったら、飛んでいきそうだな」
らしくない冗談に笑いかけた紗彩の唇は、あっという間に塞がれる。
「キスしたかった」
唇がゆっくり離れてから、結都がつぶやいた。
「それから、抱きしめたかった」
力強いその腕に、小柄な紗彩はすっぽりと包まれる。
「紗彩、君が好きだ」
紗彩はうんと背伸びすると結都の頬に手を寄せて、唇に軽くキスをする。
「私も、あなたが好き」
その言葉を聞いた結都が、紗彩に軽いキスを返してくる。
「愛してる。ずっと前から」
「ずっと前って?」
「たぶん、あの男を殴るのを見た時には好きになっていたよ」
額に、頬に、耳たぶに唇で触れられ続けると立っていられなくて、紗彩は結都にしがみついてしまった。
「もう待てそうにない」
「え?」
結都にヒョイと抱き上げられた。
そのまま、結都の使っている客間に運ばれてしまった。
「君を妻にしたい」
紗彩はただうなずいた。それだけで気持ちは伝わると信じているからだ。
「紗彩、ずっと俺のそばにいて欲しい」
ベッドに下ろされると、ゆっくり結都が覆いかぶさってきたので目を閉じる。
それからは言葉はいらなかった。
ふたりきりの濃密な夜が更けていく。