政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~
薄氷
ぎこちない暮らしは終わりを告げた。
ようやく結ばれた夜から、まるで新婚夫婦のような毎日が始まった。
いや、出会ってからをやり直しているというべきだろうか。
「順番がめちゃくちゃだな、俺たち」
「いいの。すべて振り出しに戻って始めるの」
結都が言う通り、ふたりはデートも告白も結婚式もすべて飛ばして、まっ先に籍だけ入れていた。
だから、このところはまるで付き合い始めたばかりの学生ような関係で過ごしている。
特別な場所でなくても、買い物やドライブだってふたりならどこへ出かけても新鮮だ。
これまでお互いに遠慮していたから、日常生活での他愛ないおしゃべりが楽しい。
お互いの友達にだって、これからは堂々と紹介できるのだ。
親友の希実の結婚式には夫婦そろって出席することが決まったし、結都の同期メンバーたちからは、遅ればせながら結婚を祝う会を開いてもらった。
もう誰にもうそをつかなくていい。ありのままでいられる喜びに紗彩は浸っていた。
そんなある日、お休みだった結都から買い物に誘われた。
どこに行くのかと思っていたら、格式ある宝飾店だった。
「どうしても贈りたかったんだ」
いつだったか、香澄に指輪がないと指摘されてごまかしたことがあった。
結都には伝えていなかったのに、気づいてくれていたのだ。