1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています



紗彩は驚きのあまり、思わずドアを開けてしまった。
明日は監査だというのに、山岡の行動はあまりにも不審だ。

「山岡さん」

誰かに連絡するなり、人を呼びに行くなりすればいいのに、その時の紗彩は何も考えられなかったのだ。

「紗彩さん! もう帰ったとばかり……どうして会社へ?」

「忘れ物があって戻ってきました。山岡さんはなになさっているんですか?」

山岡はいつもの人あたりのいい笑顔を向けてきた。だがその笑顔も今日はうさんくさく感じる。
わざわざ倉庫から建物に入っていたようだし、紙の文書は数年前で使わなくなったはずだ。
段ボール箱に投げ込んでいるのは、過去の書類としか思えない。
なぜそんなことをと考えたら、答えはひとつだ。今の山岡は表情を取り繕っているとしか思えない。

「ゴミがたまっていましてね。監査の前に綺麗にしておこうかと思いまして」
「山岡さんが今朝おっしゃっていたじゃないですか。書類にはいっさい手をふれないようにって」

「それは」

「元に戻してください」

紗彩の声は震えそうになる。
父や母が頼りにしていた人だから、ここまできても紗彩の中では『まさか』と思う気持ちが強かった。



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