1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
結都が梶谷乳業に着くと、大騒ぎになっていた。
門にいるはず守衛の姿はないし、本社ビルにむかって大勢の人が駆けていく。
暗くてよく見えないが、ビルから煙が上がっているようだ。なんとか駐車場に車を停めて、結都はひたすら走った。
「火事だ!」
「本社の一階が燃えている」
消化器を持っている人、スマートフォンで連絡をとっている人の姿があるが、紗彩はいない。
どうやらビルは停電状態らしく、明るいのは工場の方角と敷地内の外灯だけだ。
ビルの正面入り口は自動ドアだから、動かなくて中に入れない。
手動で開けたとしても、真っ暗な中に入るのは危険だ。
消防署への連絡が早かったのか、もう消防車のサイレン音が聞こえてきた。
すぐに仲間が駆けつけてくれるだろうと思いながら、結都は人混みの中に紗彩の姿を探す。
「紗彩!」
結都はここに防災点検で来たときのことを思い出した。
紗彩は倉庫の話をしていた。あそこからなら、研究開発室に入れるのではないか。
誰かにこの状況を伝えたくて、結都は走りながら三枝に電話をかけた。
『白川?』
コール音が聞こえてすぐに、三枝が出てくれた。
「梶谷乳業で火災発生。逃げ遅れた人がいるから、俺は倉庫から研究開発室に入って救援にむかう」
『はあ⁉ 白川、無茶だ!』
結都は電話を切った。休みで家にいる三枝が署に連絡してくれるはずだ。
これで出動してくる隊員たちに、結都の居場所がわかるだろう。
「紗彩!」
今日は紗彩たちと食事の予定だった結都はカジュアルな普段着だ。
なんの装備もしていない自分になにが出来るかわからないが、紗彩を探さなければならない。
たまたま火に強いといわれるレザー仕立てのジャケットを着ていたし、コットンのタートルネックと厚手のコットンのパンツだ。
底の厚い皮のブーツをはいているし化繊の物は身につけていない。迷わず結都は倉庫の入口を目指した。