1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
建物の裏側に行ったら、シャッターが半分くらい開いた状態になっていた。
誰がなんのためにと訝しく思ったが、気にしていては手おくれになるかもしれない。
すでにこの辺りも焦げ臭いにおいが漂い始めている。
思い切りシャッターを押し上げて、倉庫の中に飛び込んだ。
薄暗くて距離感がつかめなかったが、スマートフォンの明かりを頼りになんとか引き戸を目指して走る。
煙がどんどん倉庫に流れ出てくるから、引き戸が全開の状態なのがわかった。
ますます単なる火事にしては状況がおかしいと思ったが、紗彩を探すのが先だ。
暗闇と煙の中、スマホの明かりをかざして目を凝らすと、廊下に人が倒れているのがわかった。
駆け寄って、うつぶせになっている人を抱き上げると紗彩だった。
一瞬で、血の気が引くとはこのことか。
何度も火事現場を経験している結都も、この時ばかりは紗彩が生きていることだけを願った。
「紗彩」
耳元で名を呼ぶが、反応がない。首筋で脈をとると、ちゃんと鼓動している。
(生きてる!)
それだけが嬉しい。だがどう見ても普通の状態ではなさそうだ。
「ゆい……」
声が届いたのか、紗彩がかすかにつぶやいた。
「たす……けて」
「大丈夫だ、紗彩! 絶対に君を助ける!」
低い姿勢で倒れていたので、煙はあまり吸っていないと思われるのが不幸中の幸いだ。
結都は紗彩を抱き上げた。ギリギリ研究室までは延焼していないが、もう一刻の猶予もない。
一階フロアとつながるドアが閉まっていてよかったと思いながら、結都は紗彩を抱きしめたまま倉庫を駆け抜けた。