1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
母が希望した一階のリノベーションは、経理担当の山岡博部長には反対されたそうだ。
地元の高校で父の後輩だったという山岡は、いつも穏やかな笑顔を浮かべている温和な人だ。
紗彩のことも娘のようにかわいがってくれているが、古風なところもあるから大きなイメージチェンジは受け入れられなかったのだろう。
社長席の近くには、ベテラン社員である秋葉涼子の席がある。
山岡部長と秋葉のふたりが、慣れない母を支えているのが現在の体制だ。
「いかがですか、新しい製品は?」
紗彩の出社を待ちかねていたように、山岡部長から声をかけられた。
「そろそろ完成です。それで新商品について、社内で意見交換をする会をもちたいのですが」
「それはいいですね」
「めどが立ったらご報告します。その時は秋葉さん、日程の調整をよろしくお願いします」
紗彩がパソコン画面を向いたままの秋葉に頼んだら、ペコリと頭を下げられた。
とても無口な人なので、それが『わかりました』という返事なのだろう。
「失礼します」
山岡に軽く一礼してから、フロアの一番奥にあるドアに向かった。