1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
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一年後の春。
標高五百メートルくらいの鈴ケ鳴高原で桜の花が咲く季節になった。
開花は平野部に比べて少しばかり遅いが、カタクリやタチツボスミレなどの山野草に続いてコブシ、梅、桜がいっせいに開くのだ。
梶谷牧場も一面の緑に覆われて、高原が最も輝く季節かもしれない。
兄の恭介が、牧場近くにログハウスを建てた。
孫の守だけでなく、母になにか生きがいをと兄夫婦が考えたらしく、ここで乳製品をメインにしたおしゃれなカフェを開くそうだ。
どうやら母にオーナーとして働いてもらうつもりらしい
おっとりとしたオーナーと、濃厚な牛乳を使った美味しいデザートはすぐに高原の名物になるだろう。
「困ったな」
真新しいログハウスのテラスで、義父が「困った」といいつつ、とても嬉しそうに紗彩に話しかけてくる。
日本の都市部ではなく、あえて地方に滞在型のホテルを所有したいという外資系の企業が、鈴ケ鳴高原を気に入ったそうだ。
「うちがホテル経営してもよかったんだが」
「あらあら、今日も仕事の話しなの?」
義父との会話を遮ったのは、その辺りの散歩から帰ってきた義母の千穂だ。
紗彩と結都の結婚式の日だから、今日くらい仕事の話しはやめてとにらんでいる。
式といっても入籍はとっくに済んでいるから、家族だけに集まってもらってささやかに祝うことになったのだ。
白川家では豪華な式を挙げたかったらしいが、結都がログハウスがいいと言いだしたのをあっさりと認めてくれていた。
「いや、困ったというのはふたりの子どもの将来のことだよ」
また義父が、困ったことを言いだした。