1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
「なあに、子どもの将来って」
怪訝な顔をする妻の千穂に、大真面目な顔で正親が相談し始めた。
「白川ホールディングス、梶谷乳業、どれを継いでもらおうかと思ってね。二十年後にはもっと会社が増えているかもしれないし」
「嫌だ、まだそんなこと言ってるの?」
あっさりと義母が否定するのを、紗彩と結都は黙って聞いていた。
紗彩は白いミディ丈のウエディングドレス。ハイウエストで、たっぷりとしたギャザーがお腹をかくしてくれている。
安定期に入ったから、華奢だった紗彩も少しふっくらしてきたようだ。
結都は消防士の礼装だ。濃紺地に金モールが幾重にも連なるように肩から下がっている凛々しい姿だ。
初めて夫の礼装を見た紗彩は、思わず見とれてしまったくらいだ。
カフェのテラスは広めに造られている。
今日はいくつかのガーデンテーブルとイスが並行して並べられ、まるでチャペルのようだ。
テーブルには白いバラとアイビーが飾られて、手すりに巻かれた薄いピンクのリボンが高原を渡る爽やかな風に揺れている。
春の午後、穏やかな日差しに恵まれて、まさに結婚式日和だ。