1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています



まず工場で避難経路や火災報知機のチェックをすませ、燃料などの危険物の保管状況を確認する。
次に手の空いている工場の従業員たちに集まってもらって、消化器を使っての訓練だ。
それらが順調に終わってから本社ビルに移る。

三階建てのビルは古い構造の建物で点検では問題ないとされているが、一階の広いフロアでもし火事になったら遮るものがないのが気になった。防災カーテンの必要性を話してみたが、取り入れるかどうかは会社の判断に任せた。

フロアの奥にあるドアの向こうは研究開発室だという。
ドアを開けたら廊下にパッと照明がついて、いっきに見渡せた。
研究というからには秘密主義なのかと思ったが、大きなガラス越しにスタッフの動きがよく見えた。
給食の調理室のようにも感じられるのは、スタッフたちが白衣姿にマスクをしているからだろうか。
中のひとりが防災点検に気がついたのか、エアーシャワーを浴びてからマスクを外しながら出てきた。

「研究開発室の梶谷です。ここは私がご説明します」

消防士たちに挨拶をしたのは、若い女性だった。
結都を見た瞬間、驚いたような顔をしている。
その表情に、結都は既視感を覚えた。

(知ってる顔だ)

すぐに穏やかな表情に戻ったが、その顔には見覚えがある。
ただ、いつ会ったのか思い出せない。

「あれ?」

結都より先に、同期の三枝(さえぐさ)が女性に話しかけた。

「君、もしかして定期健診の時にいたよね。白川も覚えているだろう」

「ああ」

そうだったと結都も思い出した。
パジャマに火をつけた患者を助けようと、ケガをするほど必死になっていた女性だ。
どうして梶谷乳業の研究室にいるんだろうかと疑問に思った。





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