1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
***
「かわいかったなあ」
広報活動用の赤い指令車に乗りこんだとたん、三枝が呟いた。
「え?」
聞き間違いかと思ったが、三枝は真面目な顔をしている。
「毎年の定期健診の時に気になっていたんですよ。かわいい子だなって」
「かわいい?」
「白川だって、気に入ってたんじゃないのか?」
いきなり指摘されて、そんなはずはないと焦ってしまった。
「俺は別に……」
彼女のことを気にしたことはないと言いかけたら、三枝がからかってくる。
「いつもブスッとした顔してるのに、今日だって笑いかけて熱い視線で見つめていたぞ」
「まさか」
三枝がニヤニヤとした顔を向けてくる。
「おい、職務中だぞ」
上司から睨まれてしまったので、結都は三枝の冗談めかした言葉に憮然としたまま口を閉じた。
(笑った? 彼女に?)
普段の結都はどちらかというと愛想のない男だし、『笑う』ということ自体が苦手なのかもしれない。
どうも心から笑った記憶や、楽しい思い出というのが少ないのだ。