1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています




結都はこの街で消防士として働いているが、この土地で生まれ育ったわけではなく、東京生まれの東京育ちだ。
母方の祖父母がこの街に住んでいた縁で、ここでの就職を選んだ。だが彼らはもう他界しているし、住んでいた屋敷もすでにない。

幼い頃に母に連れられて、この街に遊びに来たことがあった。それは彼にとって、やっかいな記憶だ。

まだみっつくらいだっただろうか。
母とふたりで市内のデパートに買い物に行ったら、たまたまボヤ騒ぎに出くわした。
寝具売り場が火元だったから、あっという間に煙がデパート中に充満してしまったのだ。

慌てて我先に逃げ出そうとする客たち。必死で非常口に案内するデパートの店員たち。
初めての場所で右も左もわからなかった結都は、あっという間に母とはぐれてしまった。

どこをどう走ったか覚えていないが、しまいには壁際にうずくまっていた。
逃げ遅れていたところを見つけてくれたのが、救助にきた消防士だった。

大きな体ですっぽりと抱き抱えて、煙の中を走ってくれた記憶がある。
その時に感じた浮遊感、ああ助かっという安心感。
夢の中の出来事のようだったけど、大泣きして取り乱した母に抱きしめられたとき実感した。

あの時、ほんの数分救助されるのが遅れていたら死んでいたかもしれない。
その記憶は、結都の脳裏に焼きついて離れなかった。


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