1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
『お前、いくつになった』
「二十八です。五月には二十九になります」
ひとり息子の生年月日を忘れたのかと結都は思ったが、これは例の会話へのきっかけだと気がついた。
『その年には、私は父親になっていたな』
やはりこの話題は『あれ』に繋がる思うと、ますます気が重くなっていく。
『消防士の仕事は楽しいか?』
「楽しいというより、やりがいがある仕事です」
『そうか』
父が一瞬だけ黙り込んだ。
フッと息を吐く音が聞こえたと思ったら、いつものセリフを聞かされる。
『その仕事を続けたいなら、あの約束は守れ。わかっているな』
さっきまでの軽い口調ではなく、上に立つ者らしい威圧的な声だ。
「もちろんです」
『いい知らせを待っているよ』
「わかりました」
『じゃあ、また』
会話が終わったとたんに肩の力が抜けた。冬だというのにスマートフォンを持つ手に汗をかいている。
父からの早朝の電話に、思っていたより神経を張りつめさせていたようだ。
もう一度布団にもぐろうと思ったが、目が覚めてしまった。
結都が住んでいるのは市内でも中心部にある、立地条件のいいマンションの一室だ。
学生時代に投資で得た資金をもとに、いくつか不動産を購入した。この建物も、結都が所有している。
最上階の三十階に結都は住んでいるが、消防士として忙しい毎日を送っているから、部屋の中にあまり生活感がない。
寝室のベッドの上だけが、結都にとって寛げる空間だ。
仕方なく結都は立ち上がってカーテンを開けた。
外は朝靄だろうか、三十階の窓から見える景色は白っぽい。今朝は天気予報より冷え込んでいそうだ。
ガラス窓の結露は真冬ほどではないけれど、そろそろ三月になろうという時期にしては多い。
(おっと、今日は定期健診だったな)
毎年これだけは消防士という仕事柄もあって欠かせない。結都はシャワーでも浴びようと、バスルームに足を向けた。