政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~
綺麗な人だった。
紗彩の知る限りでは希実が一番の美女だと思っていたが、この女性も違った意味で美しい。
希実のようなすらっとしたタイプではなく、メリハリのある体つきはとても魅力的だ。
シャネルっぽいスーツを着こなしているから、紗彩よりは少し年上だろう。
「私、聞いていないわぁ」
ただ、その甘えたような喋り方はいただけない。
「結都さんに彼女がいるなんて、誰もうわさしてなかったもの」
話す内容も子どもっぽいし、紗彩に勝ち気そうな視線を向けてくる。
「香澄さん、どうしてここへ?」
「たまたま大河内さんと新幹線で会ってね。ホテルが同じだというから食事でもと思ったんが」
大河内香澄という女性はずいっと前に出てきて、ますます紗彩を睨みつける。
「ほんとに結都さんの恋人なの、あなた?」
すぐに「違います」と答えればよかったのだろうが、結都がサッと紗彩の前に立つ。
「失礼ですよ、香澄さん」
背の高い結都が前に立つと紗彩からは三人の表情は見えないし、この状況が理解できなくて言葉が見つからない。
「私、気分が悪くなりましたの。お食事はご遠慮するわ!」
香澄はかなり怒ってしまったようだ。
彼女が去ると、結都がフッと大きく息を吐くのが背中の動きでわかった。
「相変わらずだな、彼女は」
「そうですね」
男性ふたりはどうやら同じ意見のようだ。
「さあ、食事にしよう。あなたもご一緒にいかがですか?」
「あの」
紗彩は丁重にお断りしようと思ったのだが、結都の方が早かった。
「チョッと彼女のドレスにトラブルがありまして、お父さんは先にレストランへ行ってください」
「そうかい?」
「ホテルのブティックへ寄ってから、ふたりで行きますので」
「じゃあ、待っているよ」
ニコニコと機嫌よさそうに、結都の父はホテルマンの案内でエレベーターホールに向かって行った。