1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
「山岡さんの紹介なんだけど、あなたにどうかって言われているの」
「お見合いなんて」
紗彩が断る前に、母が早口でまくし立ててきた。
「こんどの新製品を発売するために山岡さんに試算してもらったら、ものすごく初期投資の費用がかさむらしいの。丸山牧場から生乳を運んでくる輸送費、新しく製造ラインを作らなくちゃ量産体制が整わないし、銀行からお金を借りようにも返済が残っているし、今の業績だと難しいかもって……」
「ちょっと待って、お母さん。そんないっぺんに言われても」
紗彩の頭の中で、整理が追いつかない。
もちろん新製品を売りだすとなると設備や人材の確保、広告宣伝費など考えることは山ほどある。
まさかそれが出来ないくらい梶谷乳業の経営がひっ迫しているなんて思ってもいなかった。
「そこまで経営状態は悪かったの?」
母は黙ってうなずいた。
自分はなんて呑気だったのだろう。美味しい商品を作って売り出せば、会社のためになると思い込んでいた。
「あのね、相手の方はうちの会社の援助をしてもいいっておっしゃってくださってるみたいで」
「お母さん」
今度は紗彩が話しを遮った。
「初期投資についてはもう少し考えさせて。今のままでもなんとかなる方法を工場長の田村さんと考えてみる」
「紗彩」
「それと、会社と私の結婚を結びつけないで。きっぱりお断りしてください!」
紗彩は母の顔も見ずに、ホールから飛び出した。
いきなりの結婚話から逃げたくて、ただ走り出してしまったのだ。