1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
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あれから母とは気まずいままだったが、希実から誘われていたパーティーの日がやってきた。
紗彩は以前に購入していたものの中で、一番のお気に入りを身につけた。
広めのボートネックに、肩から軽くふくらんだ七分袖。
柔らかい生地だからかフレアスカートもボリュームのわりに軽いし、着ていて楽なのだ。
会場のホテルで待ち合わせていた希実はオリーブグリーンの大人っぽいドレスだ。
上半身はスリムな体にフィットしているのに、裾にいくほど広がりがあるロングスカートがよく似合っている。
小柄な紗彩にはとても着られない、足の長い希実ならではの着こなしだ。
「お待たせしました~」
「こんばんは」
グレーのスーツ姿の希実の婚約者、椎名柾はメガネのよく似合う、優しそうな男性だ。
五歳年上ということもあって落ち着いた印象だし、物腰まで柔らかい。
「希実のことだからギリギリになるとは思っていたよ」
「女の子の支度には時間がかかるんですう」
わざとむくれた顔をする希実を、柾は愛おしそうに見つめている。
(希実は出会った瞬間に『結婚するならこの人だ』と思ったらしいけど)
ふたりが婚約するまで、あっという間だった。
今の柾の表情を見てしまうと、きっと彼も希実と同じ気持ちだったのだろう。
世の中にはこんな出会いもあるんだなと、紗彩は仕事がらみのお見合いの話と比較して少し落ち込んでしまった。
「かわいいでしょ。紗彩」
「そういえば、いつもより綺麗だね」
柾は美しい婚約者しか目に入っていないだろうに、社交辞令で紗彩のことまでほめてくれた。
「梶谷さんに紹介したい人が大勢いるから、挨拶がんばって」
「ありがとうございます」
今夜は梶谷乳業の社長の娘、つまり後継者として初めて青年会議所の集まり出席するのだ。
紗彩は緊張で頬が引きつりそうになりながらも、なんとか微笑みを浮かべる。