政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~


似合いそうなワンピースを選んで、着替えている間に袖の修理が可能か聞いてみる。
問題なさそうだったから、支払いを済ませてそのまま直しを依頼しておいた。

フィッティングルームから出てきたら、結都が選んだ淡いコバルト色が色白の肌によく似合っていた。
ゆっくり話したいのだが、父を待たせていると思うと気が焦る。

「洋服の代金を……」

なにか言いたそうにしていたが、急いでブティックから連れ出した。

ひと気のないエレベーターホールで立ち止まる。
戸惑いか、驚きか、好奇心か、どれが勝っているのかわからない目をして結都を見上げてくる。

「俺の事情に巻き込んですまない。申し訳ないが、今夜だけ恋人のフリをしてくれないか?」
「今夜だけ? フリ?」

ますます困惑しているが、とにかく頭を下げて頼み込んだ。

「今夜、父の前で恋人のフリをしてくれると助かる!」

どんなにかっこ悪くても、自分の仕事を続けるためには彼女しかいないと結都は焦る。

「頭を上げてください」

エレベーターが一階について、扉が開く。

「今夜だけですよね」
「ああ。父と食事してくれるだけでいいんだ」

「今夜だけなら、さっき助けてくださったお礼に引き受けます」

彼女は迷ったようだったが『今夜だけ』を強調しつつも、首をコクリと縦に振ってくれた。

「ありがとう!」

そのまま彼女の手を引いて、エレベーターに乗り込んだ。




***




「夕食というには、すっかり遅くなってしまったね」

レストランの窓際の夜景が見える席で父は待っていた。
東京の夜景に比べたら寂しいかもしれないが、こじんまりとした生活感のある景色も捨てがたい。
色鮮やかにせわしなく輝く広告の明るさではなく、マンションや住宅街の灯りは目に優しい。

アペリティフを飲みすぎたのか、父は少々ご機嫌になっているようだ。

「あらためまして、お付き合いしている梶谷紗彩さんです」
「初めまして。先ほどは失礼いたしました」

少し遅い夕食になったので、三人とも同じ軽めのコースを頼んだ。
静かに料理が運ばれてきて、食事を始めた。
突然の頼みごとにどうなることかと思ったが、幼いころから躾けられているのかマナーはしっかりしているし、父との会話も弾む。

「美味しいです」
「それはよかった」

父はすっかり気に入っているようだ。
確かに顔立ちはかわいいし、食事している仕草には品があって話し方は知的だ。

偶然とはいえ、申し分のない人に恋人のフリを頼めてよかったと、結都は胸をなでおろす。



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