1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
少し離れた場所で、グラスを傾けながら楽しそうに柾と寄り添っているのが見えた。
その周りに、華やかな男女が数人集まっている。
(恋人とか、婚約者のいる人たちだわ)
婚約式とか結婚式が近い人たちばかりで盛りあがっているのだろう。
さすがに自分には縁のない世界だと、紗彩は希実と合流するのを諦めた。
(ご挨拶したかった人には会えたし、そろそろ失礼しよう)
自由散会だから失礼にはならないだろうし、ドレスは後日クリーニングしてから返せばいい。
【疲れたから先に帰るね】と希実にメッセージを送っておけば、わかってくれるだろう。
そう決めて、紗彩は扉を開けて廊下に出た。
明るくて賑やかだった会場から一歩出ると、シンと静かで妙な気分だ。
廊下にはそれほど照明が多くないから、別世界のようだ。
「梶谷さん」
ロビーに向って歩き出そうとしたら、後ろから声をかけられた。
「梶谷紗彩さんですよね」
明るい茶色に髪を染めた若い男性が、こちらに駆け寄りながら親し気に話しかけてくる。
「あの、どちら様でしょう」
誰かわからなくて、申し訳なく思いながら紗彩が尋ねた。
「山岡さんから聞いていませんか? 金子修也です」