政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~



***



「今日はありがとうございました」

「こちらこそ、突然とんでもないことを頼んでしまって申し訳なかった」

ホテルの駐車場に停めていた結都の車に乗りこんでからは、お礼の言い合いになってしまった。
紗彩は金子から助けてもらえたし、結都のピンチを紗彩が救えたらしい。

「あの、失礼かもしれませんが、私が恋人のフリをした理由を聞いてもいいですか?」
「ああ、そうだよな。君にとって突拍子もないことだったろう」

レストランで話して、結都の父が白川ホールディングスの社長だとわかったが、どうして恋人のフリを頼まれたのかは謎のままだった。

なかなか説明しにくいことなのか、どうやら言葉を選んでいるようにも見える。
紗彩が少し待っていたら、とてもあっさりした答えが返ってきた。

「父が早く結婚しろって、あれこれ縁談を勧めてくるのがうっとうしかったんだ」

「それだけ?」

そんなことでと思った紗彩は、つい気の抜けた声になってしまった。
他人から見ればあきれるしかないが、本人にとっては重大なことなのだろう。

「君が今夜うまく演じてくれて助かった。ありがとう」

紗彩でも白川ホールディングスという会社の大きさは理解できる。
白川家の御曹司の結婚話となると複雑な事情がありそうだ。ただこれ以上は、紗彩が立ち入れない問題だ。
恋人のフリをするなら、たまたま出会った通りすがりの紗彩が適役だったのだろう。
下心のある女性なら、ここぞとばかりにグイグイ結婚を迫っていきそうだ。

「お役に立ててよかったです」

そんな話をしているうちに、梶谷家に着いた。




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