政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~




「さ、いただきましょ」
「いただきます!」

トーストとサラダを添えたスクランブルエッグ、それに母はブラックコーヒー、紗彩はカフェオレ。
シンプルな朝ごはんだけど、少しは工夫している。毎朝ヨーグルトやチーズなどの乳製品を一品加えるのだ。
今日はヨーグルトにブルーベリージャムを添えている。

「これも恭介(きょうすけ)のところの牛乳から作ったの?」
「正解。ブーベリージャムは果林(かりん)さんが送ってくれたの」

恭介というのは梶谷家の長男、つまり紗彩の兄だ。
妻の果林と結婚して八年目の三十歳で、二歳になるかわいい双子の男の子に恵まれている。

兄は大学の農学部で学んでいるときに、アルバイト先の牧場で恋に落ちた。
梶谷家は乳製品の製造販売をする会社を経営しているが、その跡を継ぐことよりも大切だと、卒業と同時にひとり娘だった彼女の家に婿入りしてしまったのだ。
果林の実家の丸山(まるやま)牧場は、市内から車で一時間半くらいのところにある鈴ヶ鳴(すずがなる)高原にある。
兄夫婦が力を入れているのがイギリス原産の乳脂肪分の多いお乳を出す乳牛で、近くの酪農家たちと協力して飼育数を増やしているところだ。

「少し酸味が強い気もするけど」
「やっぱり。もう少し甘みを加えてみようかなあ」
「甘すぎても女性から敬遠されるわね」
「では社長、砂糖の量を調整して試作してみます!」

父亡きあと、梶谷乳業の社長の座を継いだのは母だ。そして大学で食品栄養学を学んだ紗彩は新商品の開発を担当している。
今年に入ってから、紗彩は兄の牧場で生産される濃厚な牛乳を使った新しいヨーグルトを作ろうと研究を重ねているのだ。

「完成が楽しみね」
「うん。あとひと工夫なの」

社長が交代したことで今後の経営が危ぶまれたのか、大手スーパーマーケットチェーンとの契約は継続されなかった。
主流だった販売ルートを失って営業成績は悪化し、契約を見込んで新しい機械を導入していたから銀行からの借入金もある。
つまり会社の経営は厳しくなっているのだ。
業績を回復させるためにも、紗彩はこのヨーグルトが梶谷乳業の救世主になってくれたらと願っていた。



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