政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~
梅雨雷




しとしとと、長雨が続いている。
うんざりする毎日だが、これを過ぎれば季節はいっきに夏に向かうだろう。

「今日も一日よろしくお願いします!」

朝一番に、研究開発室内に島村の大きな声が響く。
それから四人そろって打ち合わせをするのが研究開発室の朝のルーティーンだ。

「そろそろですか?」

末長室長が紗彩に声をかけてくる。

「そろそろです」

紗彩がゆっくりと答えると、みんなパッと明るい顔になった。

青年会議所や椎名柾の協力もあって、少しずつだが新商品の前評判は高くなっている。
援助を申し出てくれた会社も数件あり、面談を控えていた。

「よく頑張りましたね」

新しい商品を売り出すことに消極的だった末長も嬉しそうだ。
従来通りの商品ラインを大切にしてきた末長も、紗彩の努力を認めてくれたのだ。

「あとは売り出すだけです!」

スタッフたちから拍手がわいた。
紗彩がこれからの進め方を相談をしようと思っていたら、内線電話が鳴った。
始業時間前に電話連絡があるのは珍しい。
室長がおもむろに受話器を取ると、大きな声が漏れ聞こえてきた。

【社長がお倒れになりました! 今、救急車を呼んでいます!】

「ええっ?」

聞こえてきた声は山岡のものだ。

「紗彩さん、早く事務所へ!」

末長から言われる前に、紗彩は駆け出していた。
クリーンシャワーだけ浴び、そのままドアを開けて一階フロアに飛び込んだ。

「お母さん!」

梢はデスクの横に、受話器を握りしめたまま苦しそうに(うめ)きながら倒れている。
秋葉が背を撫でているが、起き上がることもできないようだ。
今朝は元気そうに見えただけに、この状況が信じられない。

駆けよった紗彩は、膝をついて母に声をかける。体にふれると、ますます顔をしかめる。

「痛いの? 苦しいの?」

痛みに耐えているのか、返事もできそうにないくらい唇を嚙んでいる。

「紗彩さん、あまり動かさない方が」

遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてきた。

「お母さん、救急車が来たよ! がんばって!」



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