1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
どうしようかと思う間もなく、金子が腕を振り上げたのが見えた。
これは叩かれると、痛みを覚悟した。
キュッと目をつぶって身をかがめたが、痛みはやってこない。
逆に、金子のウワッという小さな叫びが聞こえた。
「嫌がる女性に手を上げるなんて、最低ですね」
そっと目を開けると、仕立てのよさそうなスーツを着た背の高い男性が紗彩の前に立っている。
背中越しにしか見えないが、どうやら金子の腕を逆に捻り上げているようだ。
「は、離せっ。貴様もタダじゃすまないぞ!」
「それはどうでしょう。私は先ほどの会話をたまたま聞いていましたし、ホテルには防犯カメラがあちこちに設置されているんですよ」
慌てた金子が、キョロキョロと廊下の隅まで見渡している。
たしかに、要所ごとにカメラがあるのは見てとれた。
「くそっ」
「このままお引き取りになった方がいいのでは? それとも警備員を呼びますか?」
金子は怒りでプルプルと震えていたが、男性の威圧的な声で少しは冷静になったらしい。
小声でぶつぶつと言いながら、パーティー会場に戻って行った。
助かったと思ったとたん足の力が抜けそうになったが、紗彩はなんとか踏みとどまって壁にもたれかかった。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。ありがとうございました」
紗彩はやっと視線を上げて、助けてくれた男性と顔を合わせた。
その瞬間、思わず目を見張る。それは、目の前の男性も同じだった。
「あなたは」
「君は……」