1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
紗彩の目の前に立っていたのは、北消防署の消防士、白川だ。
足立病院や、防災点検で会社に来たときにも会っている。
だが、いつもの彼とはなにかが違っている。
(ものすごく雰囲気が違う)
ピンと立っていた短めの髪はトップのあたりが綺麗になでつけられているし、紺のスーツは逞しい上半身にピッタリしているからオーダーメードだろう。
いつものシンプルな様子とは真逆の、どこか上品で洗練されているたたずまいだ。
「君とはたしか、足立病院や梶谷乳業で会ったような」
「はい。梶谷乳業で開発を担当している梶谷紗彩と申します」
「梶谷?」
「はい。母が社長を務めています」
自己紹介したら、結都はかなり驚いていた。
しげしげと頭から足元まで見られているのがわかる。
希実ががんばってくれたおかげで、白衣姿の研究員と同一人物だとは信じられないのかもしれない。
「俺は北消防署の白川結都だ。何事もなくてよかった」
「はい。おかげさまで助かりました」
ともかくお礼をと頭を下げたら、金子に捕まれていた左の袖が変な形にぶらんと下がった。
「あ!」
さっき暴れた時に、袖を縫いつけていた糸が切れたらしい。
「どうしよう」
結都も袖がおかしいことに気がついたのか、紗彩の肩に手を伸ばしてきた。
「少しほつれていますね」
よく見ようとしたのか、紗彩の首の近くに顔を近づけてくる。
破れていたら困るしどうしようかと考えていたら、ふたりの距離が近いことに気がついた。