1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
結都が壁際に立つ紗彩を片腕で閉じ込めたふうにも見える、微妙な立ち位置だ。
それに気がついた紗彩が離れようとした時に、横から控えめな声がかかった。
「白川様、お探ししました。お父様がおみえになりました」
それと同時に、低い男性の声も聞こえる。
「結都、こんなところにいたのか。そのお嬢さんは?」
「あ……」
目に見えてわかるくらい、結都の顔が歪んだ。
紗彩は誤解されないように、袖を押さえながらサッと横に体をずらして結都から少し離れた。
「お父さん」
「ロビーで待っているように伝えたはずだが」
「チョッと色々ありまして」
この状況を誤魔化そうとしてくれているようだが、結都の父だという上品な男性は興味津々といった顔つきだ。
「そちらの方を紹介してくれないのか?」
自分から挨拶すべきなのか、どう口を挟んでいいのか紗彩は迷ってしまった。
「彼女は、梶谷紗彩さん。梶谷乳業の社長のお嬢さんです」
戸惑う紗彩が口を開く前に、紹介してくれたようだ。
「彼女とは付き合っています。つまり、俺の恋人です」
おまけに、結都がとんでもないことを言った。
みっともなく声を上げなかった自分をほめてやりたいが、ますます焦ってどう振舞うべきかわからない。
(恋人って言った⁉ 私が⁉ 彼の恋人⁉)
紗彩の混乱をよそに、男性は嬉しそうな声を上げる。
「そうかそうか! やっとその気になったのか」
その気になるという意味を紗彩が考えていたら、ひとりの女性が姿を見せた。
「嘘でしょ」