政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~


驚かせてしまったかと、慌てて手を離して話題を変えた。

「失礼だが、会社の業績がよくないのかな?」

先日防災訓練に行った時は堅実そうな会社に見えたが、実際のところは詳しく調べないとわからない。
結都の質問は唐突だから無視されるかと思ったが、当たり障りのない範囲で答えてくれた。

「父が亡くなってからよくないのは事実ですが、そこまで悪いわけでもありません」

社長だった父親が亡くなった時に、大手スーパーとの業務提携が終了したらしい。
それがきっかけで優秀な社員が抜けて業績は悪化したが、なんとかここまで持ちこたえてきたようだ。
しかも丸山牧場の協力もあって、濃厚な牛乳を使って新製品を発売しようとしているという。

初めは言いにくそうにしていたが、言葉にしているうちに落ち着いてきたように見える。
会社とは直接関係がない相手だから、仕事の悩みも打ち明けやすかったのだろう。

「経理担当者によると、現状では追加の資金調達が難しいそうです。お見合い相手の方は大きな会社の息子さんなので、梶谷乳業を援助してくれるっていう話だったんです」

いわゆる会社同士の利害で成り立つ、政略結婚のような話だ。

「それを君が断った」
「はい」
「ほかには頼れるところはない?」

「いくつか援助を受けられそうな会社が見つかってはいるのですが、こうなったからには一日でも早い方が……私からもう一度あの人にお願いしてみようと思います」

「え?」

思いつめたような表情から、会社のために最低な男との縁談を受け入れようとしているのがわかった。

「今度はむこうから断られるかもしれませんが」

正当防衛とはいえバッグで相手を殴ってしまったことを思い出したのか、苦笑いしているのが逆に痛々しい。

「すみません。関係ない方に、こんな内輪の話を聞かせてしまって」
「いや、話を聞かせてもらってよかったよ」
「え?」

結都の中で、また閃いたものがある。ホテルで会った夜と同じ感覚だ。
心の中で思いついたことが、考える間もなくスラスラと口から勝手にあふれだしてくる。

「つまり君は、すぐに資金援助してくれる相手となら、どんな男とでも結婚するというわけだ」
「そんな言い方……」

図星だったのか、結都の言葉が気に入らなかったのか、不機嫌になったのが見てとれた。




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