1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています




結都が壁際に立つ紗彩を片腕で閉じ込めたふうにも見える、微妙な立ち位置だ。
それに気がついた紗彩が離れようとした時に、横から控えめな声がかかった。

「白川様、お探ししました。お父様がおみえになりました」

それと同時に、低い男性の声も聞こえる。

「結都、こんなところにいたのか。そのお嬢さんは?」

「あ……」

目に見えてわかるくらい、結都の顔が歪んだ。
紗彩は誤解されないように、袖を押さえながらサッと横に体をずらして結都から少し離れた。

「お父さん」
「ロビーで待っているように伝えたはずだが」

「チョッと色々ありまして」

この状況を誤魔化そうとしてくれているようだが、結都の父だという上品な男性は興味津々といった顔つきだ。

「そちらの方を紹介してくれないのか?」

自分から挨拶すべきなのか、どう口を挟んでいいのか紗彩は迷ってしまった。

「彼女は、梶谷紗彩さん。梶谷乳業の社長のお嬢さんです」

戸惑う紗彩が口を開く前に、紹介してくれたようだ。

「彼女とは付き合っています。つまり、俺の恋人です」

おまけに、結都がとんでもないことを言った。
みっともなく声を上げなかった自分をほめてやりたいが、ますます焦ってどう振舞うべきかわからない。

(恋人って言った⁉ 私が⁉ 彼の恋人⁉)

紗彩の混乱をよそに、男性は嬉しそうな声を上げる。

「そうかそうか! やっとその気になったのか」

その気になるという意味を紗彩が考えていたら、ひとりの女性が姿を見せた。

「嘘でしょ」






< 34 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop