政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~



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キッとした表情で結都に提案してくる紗彩。
いつもはふんわりとしてつかみどころがないように見えるのに、ときおり別人のような表情を見せる。

パーティーの日の愛らしい姿。そんな装いでも男性相手に一歩も引かない勇ましさがある。
今もそうだ。
母親の病室で甘えん坊らしい表情を見せたかと思えば、仕事に関しては大胆な一面を見せてくる。

(ほんとに飽きないな)

これまで知り合った中に、結都を退屈させない女性がいただろうか。
同期の三枝たちが話しているのを聞くと、女性に頼られたり甘えられたりすると嬉しいそうだ。
かわいらしさだけを相手に求めるのは、結都の性格には合いそうにない。

あまり自覚がないまま、結都は紗彩のことをもっと知りたいと思うようになっていた。
だがふたりの関係は、消防士を続けるために会社への援助を約束したことで成り立つ政略結婚だ。
相手が紗彩でよかったと思う反面、もうひとつの事実を伝えていないことが悔やまれる。

(父から子どもを作れと言われているなんて、話せるわけがない)

紗彩に受け入れてもらうために、この結婚は形だけだと最初に伝えてしまった。
普通の夫婦である必要はないと話したとき、紗彩は動揺しつつもホッとしていたのを覚えている。
そういう前提だから、引き受けてくれたようなものだ。
会社のためならなんでもするという紗彩に、子どもまで産んでくれとは言いだせなかった。

(それにしても、プレゼンか)

面白いことを思いつくものだ。
実業家である白川正親相手にどんな話をするつもりなんだろう。
楽しみでもある反面、両親が結婚に反対したら困る。
うまく切り抜けられるよう、サポートした方がいいかもしれない。

ふと、病院のベッドに横たわっていた紗彩の母を思いだす。

(急に結婚すると報告したが、想像以上に喜んでくれたな)

おそらく病気で気弱になっていたから、娘の将来が心配だったのだろう。
弱っている母親のためにも、ますます紗彩に対しての責任を感じた。
うそをついてしまって申し訳ない気持ちもあるが、それを補う以上に梶谷乳業への支援は手厚くしたい。
結都は紗彩の研究が花開くよう、全力で応援しようと誓った。

(まるで運命共同体だな)

ふたりとも自分のやりたいこと、自分の仕事のために結婚する。
今はただ、この計画がうまくいくように願うしかなかった。





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