政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~



「あらあら、仲がいいのねえ」
「あたり前だろ。結婚するんだから」

パッと手を離しながらも結都が堂々と答えるのを聞いて、紗彩は真っ赤になってしまった。
そんな顔を誰にも見られたくなくて、視線を膝に向けた。
その様子を正親が満足そうに見ていたことには気づいていない。

ほどなくして、戸田が紗彩が持参した商品をトレーに乗せて運んできた。

「お待たせいたしました」

ヨーグルトもアイスクリームも、ガラスや藍の小鉢に盛られてグレードアップしている。
バニラアイスにはミントの葉が飾られているし、ヨーグルトに添えてもいいように、イチゴとブルーベリ―のコンフィチュールまで準備されていた。

「丸山牧場の牛乳で作ったものです。乳脂肪分が多いので驚かれるかもしれません」

「さっそくいただくわ」

千穂はまずヨーグルトから口に入れた。
ひとくち目をゆっくり味わっていると思ったら、すぐに無言でふたくち、みくちとスプーンを動かしている。
丸山牧場の牛乳と聞いて、正親も興味を持ったのかアイスクリームに手を伸ばしている。
乳脂肪分をアイスクリームとして調整し、カロリーを控え目にするため糖質を少なくするようこだわった商品だ。
どうやら口にあったらしく、ペロリとひと皿食べてしまった。
つぎはヨーグルトだと、そのまま食べたりコンフィチュールを乗せたりして試している。
戸田がコーヒーを運んでくるまで、ふたりともただ黙々と食べていた。

早く感想が聞きたくて、とうとう紗彩から尋ねてしまった。

「あの、お口に合いましたでしょうか」
「黙って食べてないで、なにか感想を言ったらどうですか?」

結都もじれったそうに促してくれる。

「とっても美味しい! 生乳の風味がいいわね。これをスーパーマーケットで販売する予定なの?」

スプーンを置くなり、千穂が感嘆の声をあげた。

「はい。最初は地元中心になりますが、量産体制が整ったら全国で販売できたらと思っています」

以前は大手のスーパーマーケットと契約更新できなかったが、この商品なら販売してもらえる自信がある。

「都内のレストランでも喜ばれそうだわ。そういった販路は考えないの?」
「まだ生産量に課題があるので」

正親もウンウンとうなずいている。

「正直、驚いたよ。結都から梶谷乳業への援助を頼まれた時は、単に恋人のお母さんが経営する会社だからと思っていたんだが」

「申し訳ありません。白川ホールディングスからご支援をいただくためにも、まず商品を知っていただきたくてお持ちしました」

細かい成分などの説明を、白川夫妻は笑顔で聞いてくれている。どうやら新商品は合格したようだ。

「乳脂肪が多いって聞いていたからしつこいかなと思ったけど、甘みと酸味のバランスがいいわ」

「ありがとうございます」

だが、紗彩の勝負はこれからだ。




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