1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
「紗彩さんに会えてよかった」
「こちらこそ、ごちそうさまでした」
食後のエスプレッソを飲みながら、父は満足そうだった。
「思わぬ地元の情報を聞くことができたからね」
古くから伝わるお祭りや隠れた特産品などは、兄夫婦が住んでいるからこそ知っている内容だ。
「ぜひ、東京のわが家にも遊びに来てください」
「ありがとうございます」
父がわが家に紗彩を誘うのを聞いて、結都は顔が引きつりそうになった。そんな日は絶対にこないというのに。
「結都、紗彩さんを送ってさしあげなさい」
「はい」
父は紗彩とばかり話して、結都とはほとんど会話もなかった。
それでも機嫌がいいから、よほど気に入ったのだろう。
今夜だけのつもりだから、しばらくして『別れた』と言ったら、がっかりさせてしまいそうだ。
「行こうか」
レストランの出口まできたところで、結都は大きくため息をついてしまった。
それが紗彩も同時だったから、お互いツボにはまったのか顔を見合わせて小さく笑う。
レストランの従業員たちが微笑みながら見送ってくれたが、ふたりの関係を誤解されたのかもしれない。
それくらい、初めてゆっくり話した相手とは思えないくらい息ピッタリだったのだ。