1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
「おばさんが倒れたって聞いたの」
「肩と腕を骨折したみたい。ほかにも悪いところがあるらしくて」
「父に聞いてみようか?」
勤務中の希実に心配をかけてしまったようだ。
「ううん、大丈夫だよ。手術が終わるのを待ってるだけだから仕事に戻って」
「二階に家族控室があるから、そこに行ってみて。なにかあったら声かけてよ」
「ありがとう」
希実に教えてもらった部屋には、ゆったりとテーブルとソファが置かれていて、自動販売機が明るく光っていた。
誰もいなかったから、壁際のソファーに腰をおろした。そのまま紗彩はじっと前だけを向いていた。
単純骨折と聞いていても、もし手術中になにかあったらと、恐ろしい想像が次々に頭の中をよぎる。
それ以外にも会社のこと、新製品のことなど次々に浮かんでは消えていく。
兄に知らせようかとも思ったが、この時間は牛と子どもたちの世話に追われているはずだ。
母に骨折以外の病気があるなら、それがわかってからにした方がよさそうだ。
この先なにが起こっても、ひとりで立ち向かう勇気が欲しい。紗彩はキッと壁を見つめ続けていた。
「梶谷さん?」
どれくらい壁とにらめっこしていただろう。ふいに、自分の名前が呼ばれた気がした。
手術が終わったのかと顔を向けると、控室の入り口に背の高い男性が立っていた。