1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
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北消防署の勤務は、基本三交代制だ。まる一日働いたら、二日休み。時には休日もある。
消防士の仕事は休みが多いといわれることもあるが、二十四時間勤務はなかなかハードだ。
結都は勤務が明けていたが、マンションに帰ろうかどうしようかと迷っていた。
朝一番に救急救命士として出動した先が気になっていたのだ。
(梶谷乳業本社……)
紗彩が勤めている会社だ。
何事もなければいいがと思ったが、倒れていたのは母親だった。
(父親を亡くしているから、頼りの母親まで倒れたら辛いだろう)
結都は、それしか考えられなかった。ただ紗彩のことが気になるのだ。
冷静になれば、彼女との関係は言葉でうまく表現できない。
単なる知り合い程度なのに、なぜか秘密を共有している。奇妙な関わり方をしたものの、連絡先も交換していない。
(よし、決めた)
結都は彼女のもとへ急ぐことにした。
足立病院に着いて紗彩の居場所を聞いてみたら、家族控室にいるとわかった。
そこへ行ってみれば、ひとりで長椅子に座っている。
どうやら両手を膝の上で組んだまま、じっと壁を見つめているようだ。
心細くて泣いているのではと心配したが、勝手な思い込みだったらしい。
(思ったより、しっかりしているみたいだ)
逆にまばたきもせず、にらみつけているような表情から彼女の緊張感が伝わってきた。
「梶谷さん」
思わず声をかけてしまった。