政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~



まず、結都は家にいるときでもトレーニングを欠かさない。
朝食の支度をしていると、ジョギングを終えてシャワーを浴びたばかりの結都と高確率で遭遇する。

体にピッタリとしたシャツ。まだ濡れている髪をタオルでざっと拭いている姿。
男の人に色っぽいといっていいのかわからないが、それを見るたび紗彩はドキドキがとまらなくなる。

ケガをすることもあるようで、手や足に包帯やテーピングをしている時もある。
日常の訓練や消火活動のときのものだからと平気な顔を見せているが、紗彩は心配でたまらない。
ひとりで巻きにくそうにしているときなど「お手伝いしましょうか」と、声をかけるだけで精いっぱいだ。

大学時代も自宅から通っていた紗彩は、下宿していた友人が恋人と暮らし始めたという話を聞いて憧れたことがあった。
そんなシチュエーションは自分にはありえないと思っていたのに、今や現実のものとして降りかかってきている。

同居している相手に対して、大人の女性ならどんな対応をすればいいのだろう。
男性に慣れたふりをするべきか、ありのままを見せるべきなのか。

同じ家で暮らしていても、結都の勤務と紗彩の仕事ではすれ違うことが多い。
せめて自分にできることといえば、食事を作ることくらいだ。
朝からしっかり食べてもらいたくて、結都に満足してもらえるよう試行錯誤を重ねている。
パン食の日には、ソーセージやベーコンだけでなくハッシュドポテトをくわえて見たり、甘いものはどうかとフレンチトーストを焼いてみたりもした。体力が必要な仕事とあって側で見ていても、気持ちのいい食欲だ。


夕食もどうかと紗彩から聞いてみたが、結都は仕事だとか友人と会うからとか理由をつけて同じテーブルにつくことは滅多にない。
遠慮なのか、避けられているのか、どうも結都の考えていることがつかめない。
紗彩は、白川結都という名ばかりの夫に振り回されている気がしていた。








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