政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~





病院本館の四階までエレベーターで上がると、受付会場になっている大ホールの入り口にはもう人影が見えた。
背の高い人ばかりだから、健診を受けに来たのだとすぐにわかる。

「おはようございます」

挨拶しながらホールに入って、紗彩はジャケットとバッグをパイプ椅子に置いた。
テーブルの上の筆記用具や駐車券にチェックを入れるスタンプ台を確認していたら、後ろからポンと肩を叩かれた。
振り返ると、受付表を持ってニコニコしている希実が立っていた。希実は足立病院の医事課に勤めているのだ。

希実は、背が高くて知的な顔立ちの美女だ。
ややキツイ印象を受けるけど、実は涙もろくて笑い上戸というユニークな性格の持ち主だ。

「おはようございます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

他人行儀な挨拶をしてから、希実が真面目そうな顔をして説明し始める。

「受診される方は予約順にお見えになりますから、こちらの表にチェックを入れてください」
「はい」
「車で見えた方には、駐車券にスタンプをお願いします」
「は、はい」

毎年同じ内容なのに、無理に堅苦しい口調で話す希実がおかしくて紗彩の声が震える。

「もう、紗彩ったら。私がやっと笑いをこらえているのに」
「ごめんなさい。希実の頬が引きつっているから我慢できなくて」

お互いの顔を見て、またクスクス笑ってしまった。

「終わったらチョッと話があるの。時間ある?」
「大丈夫だよ」
「じゃあ、後でね」

九時になると同時に受付がスタートした。
さすがに消防士や警察官たちの集団だけあって、キビキビとした動きで番号順に並んでくれるから大助かりだ。
受付表にチェックしたり駐車券にスタンプを押したりしていたら、ふたりが毎年受付をしているのを覚えている人からは声をかけられたりもする。

「おはよう」
「今年もよろしく」

力強い大きな声につられて、紗彩たちもハキハキと返事をする。

「おはようございます」
「ご苦労さまです」

やがて早くから待っていた人たちの受付が終わって、ひと息ついた。
あとは混雑することもないだろう。



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