政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~

「ん、んん」

逃れようと抗う紗彩の力なんて、結都の筋肉の前では赤子のようなものだ。
すべて忘れさせてやると決めた結都は、紗彩との初めてのキスだというのに、甘さだけでなく痛みまでぶつけていく。
この欲望が悲しみを洗い流せればいいと、息をするのもやっとの紗彩を味わいつくすのだ。

よろけてしまった紗彩の腰を抱いてテーブルの上に座らせると、結都はあらためて両頬に手を添えた。

「俺のことだけ考えていろ」

そう言って紗彩の目を見つめると、瞳に映っているのは結都だけだ。

「ひとりで抱え込まなくていいんだ」

結都の手が頬からすべりながら下がり、紗彩の唇に触れていく。

「俺がいる」

ぷっくりとふくらんだ唇を確かめるようになぞると、紗彩はされるがままに口を軽く開けた。

再び、紗彩にキスを落としていく。
前よりも深く、激しく、遠慮のない大人のキスだ。

どのくらいの時間が経ったのだろうか。
紗彩とのキスを堪能した結都が体を離すと、紗彩はうつむいた。

「いけないわ、こんなこと」

紗彩のかすれた声に少し冷静さを取り戻したが、結都はなにを言われても平気だ。
なじられようが、嫌われようが、紗彩には必要だったはずだ。

「忘れてください」

紗彩もキスに溺れていたはずなのに、なかったことにしようとしている。

「忘れない」

「結都さん」

「君も忘れなくていい」

紗彩からほんの一瞬でも心の痛みを消せたはずだが、キスをした事実は残るのだ。

結都は頭を冷やそうと、庭に出た。冷めた紅茶のことを思い出したが、それどころではない。
さすがにこれ以上紗彩のそばにいたら、キッチンという場所も忘れて、そのまま押し倒してしまいそうだった。

夜空の星も月も、自分の欲望を冷ややかに見下ろしている気がする。
感情に溺れなかった自分と、紗彩を無理にでも抱くべきだったと考えている自分がいる。
どちらが正しい選択だったのか、結都には答えが見つからなかった。











< 53 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop