1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
思いつきを理論で武装しながら説得していくが、紗彩は急に結婚話になったからか、困惑を通りこしてぼんやりと首をかしげている。
「きっと梶谷乳業にとってもプラスになる話だ」
「すみません。いきなりなので、よくわからなくて……」
無理を言っているとはわかっているが、結都は白川ホールディングスの仕事に興味はないし、父の跡を継ぐ気もない。
父が望む子どものことはともかく、結婚さえすれば取りあえずは時間が稼げる。
紗彩は形だけの結婚を申し込むにはもったいないくらい、とても好ましい女性だ。
だが父の手前、急いで結婚相手が必要だった結都は、なんとしてでも紗彩を手に入れると決めた。
「梶谷紗彩さん」
このチャンスを逃したくない結都は、混乱している紗彩と向き合った。
父にも好意的に受け入れられている女性が、会社を援助してくれる結婚相手を求めているのだから逃すわけにはいかない。
「この話、受けてくれますか?」
申し込む場所が病院の家族控室ではロマンスのかけらもないが、それこそ政略結婚にはふさわしいだろう。
「受けてくれますね」
「は、はい?」
疑問形だが言質は取ったと確信して、結都は彼女の両手を握った。
「契約成立。君は俺の婚約者だ」
「えっ⁉ 今の、プロポーズだったんですか⁉」
ますます彼女の目が大きくなったが、握ったままの手を結都はブンブンと振っていた。