1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
そう言いながらも視点がさまよっている。
昔から取引があった牧場が消えるのが辛いのかもしれないが、なにかおかしい気もする。
その時、軽く病室のドアがノックされた。
「はい」
看護師かと思ったら、小ぶりの花籠を手にした白川結都だった。
「失礼します」
「あ……」
突然現れるなんて、結都がなにを考えているのか紗彩は警戒した。
「今日は非番だから、ご挨拶をと思って」
そういえばお互いの連絡先さえ知らないから、突然来られても文句は言えない。
「紗彩、どなた。お友だち?」
母の見舞いに来るなんて強引な人だと思ったが、今後のことを考えたら無視できない。
梶谷乳業のためには大事な相手なのだ。
友だちと紹介するべきか迷っていたら、結都が挨拶を始めた。
「初めまして。白川結都といいます」
「白川さん」
母は結都の誠実そうな表情と態度に、すっかり気を許しているのか微笑んでいる。
「お加減はいかがですか」
「だいぶ落ち着いたんですよ」
「それはよかった」と言いながら、あっという間にベッド脇の椅子に座っている。
「あの、」
紗彩が「また日をあらためて」と言うより、結都の方が早かった。
「僕たち、結婚の約束をしたんです」
「まあ!」
ベッドに横たわったまま、母は嬉しそうな声をあげた。
「紗彩、こんな大事なこと、一番に話してくれなきゃ!」