1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています



母は血圧が上がるのではと思うくらい感激している。
安心させるように上手に話し続けている結都の様子は、いつもの生真面目な消防士の姿とはかけ離れて見えた。
やはり白川ホールディングスの社長の血が流れているからだろうかと、紗彩はふと思った。

「会社のことまで心配していただいて、申し訳ないことです」
「安心して、ゆっくりと養生なさってください」
「ありがとうございます。少し入院が長引きそうでしたの」

母は骨折したうえに、膵臓に炎症を起こしていて、ほかの内臓にも影響がでるほどの状態だったのだ。
足立院長からは『疲労がたまっているから、しばらく入院して安静にするように』と言われていた。

「それで突然申し訳ないのですが、うちの母が紗彩さんだけでもわが家に遊びに来てもらいたいみたいで、お許しをいただけたら招待したいのですが」

「こちらからご挨拶に伺いたいくらいですのに、私がこの調子なので申し訳ありません」

母がそっとギプスを手でなぞっている。利き腕だけに、不自由で仕方がないようだ。

「許可をいただけますか?」

「もちろんです。よろしくお願いします」

紗彩は張りついた笑顔を浮かべていたが、そろそろ限界になってきた。
これ以上のおしゃべりは疲れるからと、まだまだ話したそうな母を休ませる。

「では、また来ます」

紗彩は名残惜しそうな顔をする母に「送ってきます」とことわって、結都を引っ張るようにして病室から出た。
ずんずんと廊下を進んで、ひと気のない階段の踊り場まで連れて行く。
彼と話さなくてはいけないことが、山のようにあるからだ。






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