1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
「急すぎませんか」
「なにが」
「いきなりお宅に伺うなんて」
紗彩の頭の中ではまだ、結都からのプロポーズがきちんと理解できていないのだ。
そんな状態で結都の母に会うなんて、なにか失敗しそうで怖くもあった。
「大丈夫だよ。父にはもう会っているし、母だって君を気に入ると思うよ」
結都の母は、国内だけでなく海外にまで美味しいものを求めて出かけるようなタイプだという。
「君みたいに新商品の開発している職業なんて、母からみたら最高のはずだ」
結婚に向けての環境が整い過ぎている気もするが、目の前の相手はなぜか嬉しそうだ。
「もう一度、状況を整理させてください」
紗彩は深呼吸してから、この結婚についての説明を求めた。
この前は気が動転していて雰囲気に流されてしまったが、今日こそ冷静な気持ちで判断したかったのだ。
「わかった。君に求めているのは、戸籍上の妻だ。だから、その、普通の夫婦である必要はない」
「は、はい」
紗彩は言葉の意味がわかると、目の前の結都が見られないくらい動揺してしまった。
結都も照れ隠しなのか、ゴホンとわざとらしく咳をする。
それで気を取り直したのか、あらためて事情を話し始めた。
自身が白川ホールディングスの社長のひとり息子であること。
幼いころから父の会社に入社するより、消防士になることを目指していたこと。
父に大反対されたが、それを押し切って消防士になったこと。
「父からは、この仕事を続けるなら、早く結婚して身を固めることが条件だといわれている」
「どうして?」
「それは……」
ここまでわかりやすく話してくれたのに、なぜか言いにくそうに口を閉じている。
「どうしてですか?」
紗彩が言葉を重ねると、やっと難しい顔をして話してくれた。