政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~


「いつもながら、みんなカッコいいよね」

受付が途切れたタイミングで、希実がこっそり話しかけてきた。

警察官や救急隊員、消防士たちと病院とは、事件事故といった様々な面で関係が深い。
礼儀正しくサッパリとしたタイプの人が多いから、病院職員たちの間で人気が高いらしい。
おまけに背が高くて均整のとれた体格の人ばかりとあって、女性スタッフから熱い視線を浴びているという。

「みんなが騒ぐのもわかる気がするわ」

すてきな人が多いものね~と紗彩がのんきに感想を言うと、希実から残念そうな視線を向けられた。

「グループで食事会したり、連絡先の交換したりしてるみたいよ」
「あ、リアルな話なんだ」

彼らは公務員だから結婚相手として人気があって、競争率も高いのだと希実が力説する。
しかもモテすぎるせいか、離婚率も高いという真偽のわからない情報まで教えてくれた。

「紗彩も仕事が忙しいのを理由にしてちゃだめよ」
「え?」
「そろそろ、あのことから気持ちを切り替えなくちゃ」

あのこととは、紗彩がフラれた話だろう。
どうやら希実には、紗彩が大学時代の恋人に未練があると思われているようだ。
でも紗彩には、当時の恋人との記憶さえ曖昧だ。

(彼とどんな話をしてたっけ)

彼は紗彩が父のことで忙しくて会えなかった時期に、ほかの女性に目を向けてしまった。
連絡できないことを責められることもなく、あっさりしたフェードアウトだった。
自分はその程度の存在だったんだなと、なんだか女性として価値がないように思えた記憶だけは残っている。

紗彩がぼんやりしていたら、頭上から声がした。

「おはようございます」


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