政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~



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クリスマスシーズンを前に、一部の地域のみで先行発売した新しいヨーグルトは大好評だった。
販売個数に限りがあるので、ますます人気に拍車がかかったようだ。

紗彩は手ごたえを感じていたが、プライベートでは結都とこじれたままだ。
話しあうどころか、ますますお互いに忙しくなってすれ違いの毎日が続いている。

冬場に入ってからの結都はとても忙しそうだ。
いつも朝早くに家を出ているし、帰宅時間もまちまちだ。きっと出動している回数が多いのだろう。
それに年明けには消防出初式が行われるから、それに向けての訓練もあるはずだ。

結都の仕事柄、クリスマスやお正月どころではないと白川の両親は知っているらしく、紗彩あてにカードとプレゼントが届いた。
入籍して初めての年末年始だが、無理して東京に来なくていいということだろう。
気遣いはありがたいし、今の気持ちのままでは結都と一緒に過ごしたくない。
白川家に伺わないかわりに、紗彩からも心ばかりの品物を送った。

それでも新しい年はやってくる。お正月をどう過ごそうか、結都は仕事だろうかと悩む日が続いた。
紗彩の気持ちが伝わったのか、とうとう結都から声をかけられた。

「正月もいつも通りの勤務になる」
「わかりました」

お互いに淡々とした会話だ。

「それから、新年に出初式があるんだ」
「はい」

この街の出初式は、全国ニュースになるほど有名だ。
市内を流れる一級河川の河川敷に何台もの消防車両が集結して、そこから川に向かって一斉に放水するさまはとても迫力がある。
紗彩も幼いころ父に連れられて見学に行ったことがあるが、ここ何年も足を運んではいない。

「見にきて欲しい」
「え?」

「俺たちの日頃の訓練の成果だから、君にも見て欲しいんだ」

結都はいつもの生真面目な表情で、ただ「見に来て欲しい」とだけ言う。

「わかりました」

結都は自分の仕事に誇りを持っている。
言葉ではなく、目に見える形で紗彩に示そうとしてくれているのだろう。
それ以上に、紗彩は結都から向けられる熱い視線に戸惑った。
特別な想いが込められているようで、目をそらすことができなかった。

「それともうひとつ。年が明けたら梶谷乳業へ白川ホールディンから人を送り込む」
「え?」





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