政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~


われながら、よくこんな計画に乗ったものだと紗彩は思う。
会社のためとはいえ、名前と職業しか知らない人との契約結婚を受け入れたのだ。

少しでもお互いのことを知った方がいいということになり、ドライブ中は生年月日や血液型に始まって、通った大学から親戚の名前まで付け焼刃で記憶していくテスト勉強のような時間になった。

「お互いに名前で呼び合うか」
「名前ですか?」
「結婚しようというのに、白川さんはおかしいだろう?」

紗彩はそこまで気が回っていなかった。これまでは苗字で話しかけていたから、どこか他人行儀だったわけだ。
恥ずかしさもあったが、練習だからとお互いに名前で呼びあっていたら、あっという間に港区にある白川邸に着いた。

紗彩は堂々とした屋敷を見て、どこか自分の家に似ているような気がした。
もちろん圧倒的に白川邸の方が広くて格調高いが、いつだったか結都が送ってくれたときに『いい家だ』と言ってくれたことを思いだす。

ゆるい坂道に面した正門。高い塀に沿って常緑樹が植えられているところ。

お互いの育った家が同じ雰囲気だったことに、紗彩は安心感を覚える。

結都が駐車場に車を停めると、屋敷の中からエプロン姿の女性が小走りに出てきた。

「お帰りなさいませ」
「ただいま」

紗彩が挨拶しようと自分でドアを開けて車から降りると、その女性が少し驚いたような表情を見せた。
どうやらドアは結都に開けてもらうのが正解だったようだ。

「こんにちは」
「いらっしゃいませ」

さっそく冷や汗をかく紗彩だったが、結都は気にならないようで「行こうか」と先に立って歩き出した。
運転していた時のリラックスした表情は消えて、どこか緊張しているように見える。
これからふたりで大芝居をするのだから、きっと紗彩の顔も同じようになっているだろう。

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