政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~
玄関はまるで高級旅館のように広かった。そこから家政婦の案内で長い廊下を歩く。
「どうぞ」と言われて中に入ると、和風モダンな雰囲気の居間のようだ。
応接室ではなく、いきなり家族が過ごす部屋に通されたらしいと気がついて、紗彩の胸はドクンドクンと音を立てている。
「やあ、よく来たね」
正親は、広々とした部屋を利用してゴルフのパターを練習していたようだ。
こっちへというように手招きして、紗彩にゆったりしたソファーを勧めてくれる。
「お誘いありがとうございます。お言葉に甘えまして、おじゃまいたします」
紗彩は一礼してから、ちょこんとソファーの端に腰かけた。隣に結都が座る。
「待っていたよ、紗彩さん」
正親の穏やかな笑顔に、社長という肩書きに似合わない気さくな一面を見た気がする。
自宅ではいつもこんな風なのかと思って結都の顔を見れば、いつも以上に無表情になっている。
どうしたのかと思った矢先に、ノースリーブの黒地に花柄のワンピースを優雅に身につけた女性が入ってきた。
「あら、いらっしゃい」
気さくな調子で声をかけられたが、紗彩は『お母様』と呼ぶべきか迷いつつ、立ち上がって頭を下げる。
「おじゃましております」
「結都、こちらがうわさの方ね」
「梶谷紗彩さんだ」