政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~



それからは目まぐるしかった。
到着したばかりの救急車に紗彩を乗せて、足立病院へ運んだ。もちろん結都も同乗してだ。

紗彩はどうやらスタンガンで電気ショックを受けていたらしいが、ほかに目立った異常はなく、足立院長の指示で薬で眠らされたままだ。
心身ともに疲弊しているはずだから、しばらく落ち着かせた方がいいという診断だった。
義母は会社の火事以上に、現場に紗彩が倒れていたことで取り乱していたが、丸山牧場から飛んできた義兄に付き添ってもらい自宅に戻ってもらった。

結都も上司から「危険すぎる行動だ」とお叱りを受けたが、妻の大事ということもあって処罰は受けていない。
すぐに白川家に連絡して、梶谷乳業のために人材を派遣してもらうことにした。
この火事の後処理には、どう考えても人手が必要なのだ。父はすぐに優秀な榊原を派遣してくれると約束してくれた。
それに紗彩が火事に巻き込まれたと知って、仕事を放り出して見舞いに来ようとしたが、さすがに榊原に止められたらしい。
紗彩がかわいいのはわかるが、父が休むとホールディングスが抱えるすべて会社に迷惑がかかってしまうのだ。
母は海外旅行中だったが、こちらも似たようなものだ。
プライベートジェットの手配を榊原に頼んで、却下されたと聞いている。

梶谷乳業の火事と聞いて、職場の仲間たちが様子を見に来てくれる。
翌朝には現場検証があるというのに、三枝をはじめ仲間たちの好意には救われた。
事件性を考える警察からの連絡が絶えないが、肝心の紗彩は眠り続けている。

ひと晩中、眠っている紗彩を結都は祈るような気持で見つめていた。
無事に助け出せてよかった。もし現場にあのまま倒れていたらと思うとゾッとする。
せっかく結ばれた妻がこんな目にあうなんて、怒りと悲しみで胸が張り裂けそうだった。

火事については、すぐに放火と断定された。
梶谷乳業の社員の中でも古参の秋葉涼子が『自分が火をつけた』と、警察署に出頭してきたというのだ。
供述通りに、防犯カメラの映像や守衛室の記録から会社に出入りした山岡と秋葉が確認された。
また梶谷乳業の正門付近で、秋葉の指紋がついたライターも見つかったという。

共犯と思われる山岡については捜索中だという知らせが届いているが、紗彩はまだ目覚めていないから知らせようもない。
秋葉はどうやら平常心ではないというし、いったい何があったのかは紗彩が目覚めるのを待つしかないようだ。




< 74 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop