1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
「よくがんばったな」
患者がストレッチャーで運ばれていくと、消防士は紗彩に声をかけてくれた。
「突然で驚いただろう」
優しい声だ。
「は、はい。でもなにもできなくて」
「いや、君のおかげで助かりそうだよ」
そう言ってもらえてホッとした。
消防士はジャケットをギュッと握りしめていた紗彩の手を取って、指先までケガがないか確認してくれる。
どうやら気がつかないうちに軽いやけどを負っていたようだ。
「念のため、診てもらった方がいい」
「だ、大丈夫です」
「軽いからって油断しないで」
そう言うと、まだ現場に残っていた看護師に声をかけてくれた。
紗彩はあらためて消防士の男性を見上げる。
小柄な紗彩からは、とても背が高く見える。
それにインナー越しでもわかる均整のとれた肉体と整った顔立ち。
キリっとした眉に、奥二重の切れ長の目。真面目そうな印象なのに、紗彩に穏やかに微笑んでいる表情は優しそうだ。
(まるで映画のヒーローみたい)
せめて名前だけでも知りたいと思ったが、手当てを受けた紗彩が会場に戻ったらすでに彼は受付をすませたらしく、姿が見えなかった。