政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~


正午過ぎに受付けは終了した。

「お疲れさまでした」
「またよろしくお願いしますね」

顔見知りの事務職員たちとあいさつを交わしたところで、希実に引っ張られた。
従業員用のカフェスペースにある小さなテーブルに向き合って座ると、弾んだ声で話しかけてくる。

「少し先になるんだけど、(まさき)がパーティーを企画してるの」
「柾さんが?」
「ほら、来年度は青年会議所の役員になるから」

希実の婚約者、椎名(しいな)柾は紗彩たちより五歳年上の三十歳。電子部品を作っている椎名電業の長男だ。
この街の二十歳から四十歳までの青年会議所メンバーの中で、なかなかのリーダーシップをとっていると評判だ。
希実とは婚約したばかりで、紗彩はこのところあてられっぱなしだ。

「色々な職種の若手後継者を集めて、駅前の新しいホテルでするみたい」
「パーティーかあ」

お誘いは嬉しいけれど、紗彩が地味な服装で出席したら柾と希実に恥をかかせてしまいそうだ。

「チョッと無理かも」

そうこぼした紗彩の事情が、希実にはとうにわかっていたようだ。

「うちのお姉ちゃんが着られなくなったドレスがあるんだ。私だとサイズが合わないから、紗彩が着てくれない?」
「たしかお姉さん、七号サイズだったね」
「子どもを産んで体型が変わったから、独身時代の服は全部アウトだって」

紗彩は希実と柾の気遣いがありがたかった。
梶谷乳業の後継者として、そういった会に出て地元のリーダーたちの話を聞いたり交流を深めたりしたいと思っていたところだ。
ドレスだって貸してもらえるなら大助かりだ。

「ありがとう希実。出席させてもらうから、日程を教えて」
「五月の連休が過ぎてからよ。その日はうちでドレスアップして、一緒に行こうね」

詳しいことはまた相談しようと約束して、紗彩は病院をあとにした。












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