政略結婚ですが、幸せです ~すれ違い夫婦のやり直し計画~
母親同士はクスクスと笑っているから、気が合うようだ。
妻の言葉に力なく項垂れた正親は、大会社の社長というイメージからはほど遠い。
なんだか気の毒になった紗彩は言葉をかけようかと立ち上がったが、すぐに結都の止められた。
「紗彩、ほっとけ」
「でも」
「父にも考えを改めてもらういい機会だ」
紗彩と結都が出会ってから、こんなに周囲を巻き込んで運命が変わってしまったのだ。
これから生まれてくる子どもにだって、どんな人生が待っているのか誰にもわからない。
紗彩が「結婚式を挙げよう」と言いだした結都に賛成したのは、妊娠がわかったからだ。
いつかこの子に、家族が揃って笑っている写真をみせてやりたいと思ったのだ。
両親だけでなく、祖父母や伯父の家族。皆が祝福してくれている日が、一枚の写真に残せたら素晴らしいことだ。
きっとこの子にも、幸せが形になって伝わる日がくるだろう。
あなたも皆から愛されているんだよと話してやりたい。
「結都さんは約束のこと、もう気にしていない?」
結都には、父との約束に縛られた時期があった。
孫の誕生を知った正親は、今は息子夫婦の考えを尊重してくれているが、この先はわからない。
経済情勢も、家族の健康も見通せるわけではないのだ。
もしかしたら孫に会社を継がせたいと、無理難題を言いだす日が再びくるかもしれない。
「ああ。君と出会えたから、克服できたよ」
きっと結都なら、妻と子どもを守るために父親とだって闘うだろう。
そして家族を愛情深く見守ってくれるはずだ。
紗彩も愛する結都や、これから誕生してくる家族のために尽くしたいと思っている。
それは相手のためだけではない、自分の人生のためでもあるからだ。
「紗彩、君と出会えてよかった」
「結都さん」
「さあ、家族の前で誓おう」
「ええ。これからもずっと愛しあう夫婦でいますって」
結都に手を取られて、紗彩はゆっくりと立ち上がった。
双子の甥っ子たちが花びらをこれでもかとふたりに投げかけてくれている。
「おめでとう」
「あらためて、おめでとう」
家族の温かい拍手に包まれて、ふたりは最高の笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます」
これから同じ時間を分けあって生きていく。
ずっと、もっと、幸せでいるために。