1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
「ん、んん」
逃れようと抗う紗彩の力なんて、結都の筋肉の前では赤子のようなものだ。
すべて忘れさせてやると決めた結都は、紗彩との初めてのキスだというのに、甘さだけでなく情熱までぶつけていく。
この欲望が悲しみを洗い流せればいいと、息をするのもやっとの紗彩を味わいつくすのだ。
よろけてしまった紗彩の腰を抱いてテーブルの上に座らせると、結都はあらためて両頬に手を添えた。
「俺のことだけ考えていろ」
そう言って紗彩の目を見つめると、瞳に映っているのは結都だけだ。
「ひとりで抱え込まなくていいんだ」
結都の手が頬からすべりながら下がり、紗彩の唇に触れていく。
「俺がいる」
ぷっくりとふくらんだ唇を確かめるようになぞると、紗彩はされるがままに口を軽く開けた。
再び、紗彩にキスを落としていく。
前よりも深く、激しく、遠慮のない大人のキスだ。
どのくらいの時間が経ったのだろうか。
紗彩とのキスを堪能した結都が体を離すと、紗彩はうつむいた。
「いけないわ、こんなこと」
紗彩のかすれた声に少し冷静さを取り戻したが、結都はなにを言われても平気だ。
なじられようが、嫌われようが、紗彩には必要だったはずだ。
「忘れてください」
紗彩もキスに溺れていたはずなのに、なかったことにしようとしている。
「忘れない」
「結都さん」
「君も忘れなくていい」
紗彩からほんの一瞬でも心の痛みを消せたし、キスをした事実は残るのだ。
結都は頭を冷やそうと、庭に出た。冷めた紅茶のことを思い出したが、それどころではない。
さすがにこれ以上紗彩のそばにいたら、キッチンという場所も忘れて、そのまま押し倒してしまいそうだった。
夜空の星も月も、自分の欲望を冷ややかに見下ろしている気がする。
感情に溺れなかった自分と、紗彩を無理にでも抱くべきだったと考えている自分がいる。
どちらが正しい選択だったのか、結都には答えが見つからなかった。