1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
冬の虹
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あの日から、紗彩は結都を避け続けた。
キスの余韻に惑わされて、形だけの妻という立場を忘れそうになっているからだ。
あのまま永遠に続けと欲しい願うくらいのキス。
時が止まってくれたらと思い、唇が離れても、また繋がりたくなるようなキス。
そんな経験は初めてだった。終わりにしたくなくて、彼の情熱を受け入れた。
愛情がなければ交わせないキスなのではと甘い気持ちになるが、慰めてくれただけと冷静に言い聞かせる。
濃厚なキスを忘れられない紗彩は、ふたつの感情の間で揺れ動いていた。
だからこそ結都と顔を合わせないのが一番だと、日々細心の注意を払った。
朝食は早く起きて作り置いたし、彼が休みの日は会社からできるだけ遅く家に帰る。
それだけでもふたりきりになる時間はなくなるし、彼の姿を見かけることもほとんどない。
無駄に家が広くてよかったと思うくらいだ。
回復するまで長くかかりそうな母は、退院後は兄の牧場で療養することになった。
母の体調を知った兄が、しばらく仕事から離れた方がいいと提案してくれたのだ。
なるべく安静に過ごして、月に二回ほど足立病院に通院すればいいらしい。
『空気のいい場所で孫たちと遊べば気分も変わるだろう』と足立院長のお墨付きをもらった母も、ホッとした表情を見せている。
「紗彩ひとりに背負わせてしまってごめんな」
「お兄ちゃんだって、忙しいのに」