1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています


生き物を扱う仕事だから、兄だって二十四時間気が抜けないはずだ。
しかも乳量を増やしたり、観光事業に着手したりと多忙を極めている。
それでも退院の日に母を迎えに来てくれた兄は、俺にまかせろと力強く言ってくれた。

「結都くんにも会いたかったな」

紗彩たちは入籍しただけで結婚式を挙げていないから、兄と結都はゆっくり会ったことがない。
今回も結都は仕事が休めないので、兄は残念そうだ。

「消防士って、大変な仕事なんだろう?」
「そうみたい」

家でも黙々とトレーニングしている結都だが、彼の仕事には危険がつきものだ。
紗彩は近ごろ、消防車のサイレンの音を聞くとビクッとするようになった。
火事が恐ろしいこともあるが、もし出動した結都がケガをしたらと思うとじっとしていられない。
ふたりで暮らしているうちに、いつの間にか無事を願う気持ちが生まれいた。
名ばかりの夫でしかない人に、想いばかりが募っていく。

「紗彩が選んだんだ。きっといいヤツなんだろう」
「お兄ちゃんたら、ヤツだなんて」

「とってもいい方よ。頼もしくて、優しくて」
「母さんたら、実の息子より評価が高いな」

兄は母の言い方がおかしかったのか、声をあげて笑っていた。どうやら母は結都のことをかなり頼りにしているようだ。
大好きな家族に形だけの結婚だと言えるはずもなく、紗彩は顔に微笑みを張り付けて母と兄を見送った。






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