1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
わざわざ自転車置き場まできてくれたくらいだから、なにか理由がありそうだ。
紗彩はひと気のない裏庭で話を聞くことにした。
「工場でなにかありましたか?」
「いえ、今は新製品の製造にむけて順調です」
会社では新しいヨーグルトをクリスマスシーズンに売り出そうと、準備を整えているところだ。
「工事のことで……」
田村は言葉尻を濁した。とても話しにくそうだ。
「白川ホールディングスの援助で決まった、例のことですよね」
ゆっくりうなずいたので、新たな工場の建設工事のことだとわかった。
「どうやら山岡社長代理が、工場の増設工事を請け負う会社を独断で決めようとしているようです」
田村がいっそう声を落としながら話したのは驚く内容だった。
「談合でもするつもりですか?」
「おそらく特命で発注するんだと思います」
正式な入札なら条件を満たすいくつかの事業者が競争する形になるから、これまでと違う会社が工事を請け負うことになるかもしれない。前もって談合で決めておけば特定の業者が選ばれるだろうが、それは犯罪だ。
だが特命となれば、こちらが指名する会社だけに発注する仕組みだ。