1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています


せっかく白川ホールディングスの援助を受けられるというのに、ゴタゴタを知られたくない気持ちもあった。
だが紗彩の権限では帳簿を見ることも難しいかもしれない。
人あたりもいいし、父が亡くなってから会社のために働いてくれていると思っていた山岡に、なんともいえない不気味さを感じた。

母のこと、会社のこと、紗彩には頭の痛いことばかり降りかかってくる。
あれこれと悩んでいても解決方法はみつからない。
ヨーグルト以外にも商品開発は進めなくてはならないし、紗彩には次第に余裕ががなくなっていた。



***



『紗彩さんにお客様です』

昼前に研究開発室にかかってきた電話は来客を知らせるものだった。

「はい? 私にですか」

勤務時間中に研究員である紗彩に会いたいという人は滅多にいない。
受付に行ってみると、以前に見かけたことのある女性が立ったまま待っていた。

(たしか……)

ホテルで会った、結都の母の友人の娘だと聞いた記憶がある。
華やかな顔立ちによく似合うファーのハーフコートを着て、高価そうなブランドバッグを手にしている。

「覚えてくださってるかしら。大河内香澄です」
「は、はい」

そういえば『香澄さん』と呼ばれていたなと思い出した。

「か、えっと、白川紗彩です」

苗字を言い慣れなくて、自分の名前を間i違えそうになってしまった。

「お話があるのだけど」

香澄は気がつかなかったのか、ストレートに用件だけを告げてきた。




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