1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
「まさか、知らないで結都さんと結婚したっていうんじゃあないでしょうね」
香澄の声には怒りがにじんでいる。だからといって、紗彩にどうしろというのだろう。
なぜこんな人の相手をしなくちゃいけないのだろうかと、このところ疲れていた紗彩はだんだん腹立たしくなってきた。
結婚した理由は誰にも言えないし、気になるのなら結都に尋ねてほしいくらいだ。
「あなたに私たちの結婚は関係ないでしょう。こんなお話でしたら失礼します」
紗彩が立ち上がりかけたら、香澄がおかしそうに身を乗り出してきた。
「あなた、なあんにも知らないようだから教えてあげる」
その言葉を聞いて、紗彩は足を止めた。どうしてだか香澄の話しを聞いてみたくなったのだ。
「彼はね、ずいぶん前からお父様と約束しているの。消防士を続けたかったら早く結婚して子どもを作れって。つまり白川家の跡継ぎが必要なのよ」
「白川家の跡継ぎ?」
「そう。結都さんのかわりに、白川ホールディングスの後継者として育てるの」
「まさか」
いつの時代の話しだろうかと思うくらい、紗彩にしたら冗談かと思うほど突拍子もないことだった。
「それが白川家よ。あなたは家のためだけに、子どもを産むためだけに結婚したの」
事実を知らなかった紗彩をばかにしたように、香澄はクスクスと笑っている。
それ以上は聞いていられなくて、紗彩は伝票つかむと「失礼します」とひと言だけ告げて店を出た。
頭の中では香澄が言った言葉がグルグルと渦巻いていた。